神経細胞の抑制性制御に果たす塩素イオンの役割は大きく、膜電位を変化させることにより神経細胞の活動性を修飾することはよく知られている。このような膜電位変化を伴う作用の他に、塩素イオンがGTP結合蛋白に直接働き、その活性を制御することが明らかになってきた。 本研究は、このGTP結合蛋白への塩素イオンの直接作用がin vivoの情報伝達系においてその伝達効率や強度に与える影響を明らかにすること、さらには塩素イオンによる活性制御を受けるGTP結合蛋白内部位と、その修飾様式を明らかにすることを目的とした。 1、反応系の設定- 本研究では、GTP結合蛋白を介した情報伝達の指標として代謝型グルタミン酸受容体(mGluR1α)刺激によるIP_3産生量を観察した。また細胞は、純粋で安定な反応系を確保するため、mGluR1αのcDNAをトランスフェクトした Chinese Hamster Ovary (CHO) cell を用いた。 2、細胞内塩素イオン濃度の調節- 細胞内塩素イオン濃度を容易に調節すると共に、塩素イオンによる細胞膜電位変化による細胞応答への影響を消去する条件として、細胞を30μg/mlのサポニンで5分間処置することが最適であった。 3、IP_3産生量の測定- 細胞内塩素イオン濃度変化により、IP_3産生量は2相性に変動した。またこのよう変動は、細胞外塩素イオン濃度の変化のみでは見られなかった。今回の実験では、細胞内での塩素イオンの直接作用を検討する実験系を確立し、この系を用いて塩素イオンが細胞内への直接作用によりmGluR1αを介する細胞内情報伝達効率を修飾することを明らかにした。今後はその修飾部位及び修飾様式いついてさらに検討することが必要であると考えられる。
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