生体における無機リン酸恒常性維持は、腎臓におけるヒトNa^+/リン酸共輸送担体による再吸収活性を調節することで行われている。特に細胞外無機リン酸レベルの変化による本輸送活性の調節は、重要である。本研究では、ヒト腎臓に発現する2つのNa^+/リン酸共輸送担体(NaPi-3およびNPT-1)のゲノム遺伝子をクローニングし、その5′-転写調節領域の塩基配列の決定およびこれらの遺伝子発現調節の分子機構について検討を行った。ヒトゲノムDNAライブラリーをスクリーニングした結果、両遺伝子の5′-転写調節領域を含むクローンを得ることができ、それぞれについて塩基配列を決定した。NaPi-3遺伝子の転写開始点より上流領域には、典型的なTATA-box、cAMP応答配列やAP-1結合配列の他、3ヶ所のダイレクトリピート様構造(DR-like)を見出した。一方、NPT-1遺伝子の5′-上流領域には、2ヶ所のCCAAT-boxやオクタマ-配列(ATTTGCAT)が見いだされたが、典型的なTATA-boxは見られなかった。次に、ルシフェラーゼアッセイ法を用いて両遺伝子の転写活性に重要な因子を検討したところ、ビタミンDが、2つのNa^+/リン酸共輸送担体(NaPi-3およびNPT-1)の発現に重要な役割を果たしているものと考えられた。さらに、NaPi-3遺伝子の5′-転写調節領域には、酵母のリン応答配列(CACGTG)が存在することを見出した。そこでこの配列を含む合成DNAを作成し、普通食および低リン食で飼育したラットの核抽出液を用いてゲルシフトアッセイを行ったところ、低リン食による血中リンレベルの低下に伴い増加するバンドを検出した。この結合因子は、リン応答性の転写調節因子であると考えられ、また、酵母と同様の配列を認識したことから、おそらく真核生物間で保存されているリン応答因子である可能性が考えられた。
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