我々は悪性腫瘍の転移、浸潤に関係するセリンプロテアーゼ、トリプシンの阻害因子として胎盤に高発現する蛋白質pp5(placental protein 5)の遺伝子を単離し、性格付けを行った。今年度は以下のことを明らかにした。 1、遺伝子座の決定;cDNAを用いたFISHによりヒト染色体7q22に遺伝子が位置するこが明らかとなった。この座位はプラスミノーゲンアクテイベータインヒビター1が存在する部位でもあり、またこの座位を含む7qの欠損が報告されている悪性腫瘍も少なくない。ノザン法によりpp5の発現を見なかった絨毛細胞腫瘍株では、染色体分析によりいずれも7qの異常が認められた。 2、抗体の作製;pp5を大腸菌を用いて高発現させ、家兎を免疫し、抗血清を作製した。この抗体はウエスタン法に利用可能であり、更にホルマリン固定パラフィン包埋を行った組織切片を用いての免疫組織化学染色にも応用可能であった。正常ヒト組織では、膵、消化管上皮、附属腺などのトリプシンが局在する細胞に陽性所見が認められ、生理的条件下でのトリプシンの活性の調節に重要な役割を有していると思われた。 3、発現プラスミドを用いた転移抑制実験;pp5を発現していない培養細胞株にpp5を遺伝子移入し、転移能の変化を観察しようとしたところ、ノザン法レベルでmRNAの発現が認められるにも関わらず、培養上清中にはプロテアーゼインヒビター活性を認めなかった。これはpp5の合成・輸送・分泌機構のいずれかに障害、欠損があるためと考えられる。現在、本実験に適した細胞株をスクリーニング中である。
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