研究概要 |
生後24時間以内のFischer系ラット新生仔の硝子体腔内にアデノウイルス12型濃縮液5μlを接種し、以下の検討を行った。 接種後10,20,30,40,50日目に眼球を摘出後、グアニジンチオシアネート溶液中にて組織を破砕し、飽和フェノールで蛋白質の除去を行い、総RNAを抽出した。このRNA10μgを鋳型として逆転写反応を行い、cDNAを得た。このcDNAとヒトアデノウイルス12型E1A遺伝子,神経系腫瘍との関連が指摘されているN-myc遺伝子、細胞の代謝回転に関与しているC-fosおよびC-jun遺伝子に特異的なプライマーを用い、PCRを行った。また、glyceraldehyde-3-phosphate-dehydrogenase(GAPDH)に特異的なプライマーを陽性コントロールとして使用した。 1)非接種組織での検討 宿主側のoncogeneであるN-myc,C-fos,C-jun遺伝子は、検討したどの段階においても微量であるが持続的に発現しているのが観察された。アデノウイルスのE1A遺伝子に特異的なプライマーを用いてRT-PCRを行うと増幅するバンドは確認できなかった。 2)接種組織での検討 E1A遺伝子に特異的なプライマーを用いた検討では、すべての検体において310bp,570bpのバンドが確認された。これは、9s,10sのRNAに相当する。また接種後50日目の検体においては、800bpのバンドが確認された。これは13SRNAに相当する。oncogene N-myc,C-fosおよびC-junの発現量は、経時的な変化は認められないが非接種組織と比較すると約3倍の発現量が確認できた。 以上の結果は、ウイルスの癌遺伝子産物により宿主側の癌関連遺伝子の発現が誘導されたことを示すものであると考えられた。また、接種後10日目ですでに持続的な発現が確認されたことにより、ウイルスによる宿主癌関連遺伝子の誘導はかなり早期に起こっている可能性が示唆された。
|