C型動物レクチンの1つであるmannose-binding protein(MBP)は、MBP-associated serineprotease(MASP)と複合体を形成し補体系を活性化する。MBP-MASP複合体は、このレクチン経路の活性化を通して感染の初期防御に重要な役割を担っている。我々は、これまでヒトMASP cDNAを単離し、MASPの一次構造およびドメイン構造が、補体古典経路の因子であるClrあるいはClsのそれに類似していることを明らかにした。 従来、セリンプロテアーゼファミリィは分子進化の格好のモデル系と考えられ、とくにエクソン-イントロン構造や活性中心セリンをコードするコドンの塩基配列の進化が議論されてきた。Clsのプロテアーゼドメイン(Light chain)は、1個のエクソンでコードされていることが明らかにされており、トリプシンやキモトリプシンなど偏在的なセリンプロテアーゼのプロテアーゼドメインが複数のエクソンでコードされていることと比較すると極めて特徴的である。我々は、MASPのエクソン-イントロン構造を解析し、そのプロテアーゼドメインが6個のエクソンでコードされていることを明らかにした。また、Clrのプロテアーゼドメインは、Clsと同様に1つのエクソンでコードされていることを明らかにした。さらに、MASP、Cly/Clsおよびハプトグロビン(プロテアーゼ様配列をもつヘモグロビン結合タンパク)について、プロテアーゼドメインの一次構造をもとに分子系統樹を作成し、その分子進化を解析した。その結果、MASP、Clr/Clsおよびハプトグロビンは1つのサブファミリィを形成し、この中で、MASPはより古いタイプであろうと推定された。すなわち、複数のエクソンでコードされたプロテアーゼドメインをもつ共通祖先から、まずMASPとハプトグロビンが分岐した。次に、イントロンを失ったハプトグロビンとClr/Clsが分岐し、さらにClrとClsが分岐したと推定される。このことは、祖先の遺伝子に存在したイントロンが進化の途中で抜け落ちたことを意味する。
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