ヒト抗体V遺伝子のうち、λ遺伝子(V_λ)はH鎖遺伝子、κ遺伝子に比べて解析が遅れている。ヒトV_λ遺伝子座の大きさ及び遺伝子の分布や総数については従来全く未知であった。本研究の目的は、まずV_λ遺伝子座全体をクローン化することにより、全V_λ遺伝子の分布および総数を明らかにすることである。つぎにクローン化した遺伝子領域の塩基配列を明らかにすることにより、全V_λ遺伝子断片の配列を解明し、全ヒト抗体遺伝子をカタログ化する。全ヒト抗体遺伝子のカタログ化は、あらゆる抗体を遺伝子工学的に産生するための重要な課題である。 本研究期間中に、全V_λ遺伝子座のクローン化に成功した。また、クローン化した全ての領域に関してEco RIおよびHin dIIIを用いて制限酵素地図を作成した。4個の代表的なV_λ遺伝子プローブを用いてサザンハイブリダイゼーション解析を行ったところ、V_λ遺伝子座は866kbの大きさであり、この領域にはV_λプローブとハイブリダイズするEco RI-Hin dIII断片が69個存在することが判明した。V_λ遺伝子に関してさらに詳細に解析を進める目的で、これら69個のEco RI-Hin dIII断片をプラスミドベクターにサブクローン化した。このうち最も上流に位置する9個の断片、合計30kbの塩基配列を段階的欠損導入法を用いて決定したところ、この領域に2個のV_λ遺伝子断片および7個のV_λ偽遺伝子断片を発見した。これらのV_λ遺伝子断片のうちの1個は脱髄性末梢神経炎患者から分離された自己抗体遺伝子であった。現在、他の全てのV_λ遺伝子の塩基配列を決定すべくゲノムDNAシーケンシングを行っている。
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