本研究は本態性高血圧の発症を疫学的に明らかにすることが目的である。そこで健常者のライフスタイルや家族歴、血清アンギオテンシン転換酵素(以下ACE)、血管拡張性因子である一酸化窒素(以下NO)の測定および遺伝子の多型性・変異を調べることを計画した。 対象は石川県の一山村で行われた住民健康診断の受診者のうち、降圧剤を服用していない成人男性155人(22-86歳、平均値55歳)、成人女性188人(22-83歳、平均値53歳)である。アンギオテンシン転換酵素(ACE)は合成基質法で測定した。血清中のNO生成量は酸化分解物である亜硝酸イオン(以下NO_2^-)および硝酸イオン(以下NO_3^-)をMiskoらの方法にて測定した。 その結果、対象者343名のうちWHOの分類による高血圧者は2名、境界域者は43名、正常域の者は298名であった。ACE、NO_2、NO_3の平均値(±標準偏差)はそれぞれ13.0±4.4IU/ml、3.9±2.0μmol/l、52.9±45.0μmol/lであった。男性の血清NO_2^-量は全年齢を通して女性より高値であったが、NO_3^-量では性別による差は見られなかった。血圧、総コレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪、空腹時血糖と、ACE、NO_2^-、NO_3^-との関係をPearsonの相関係数で比較したところ、女性ではNO_3^-とACEおよびNO_3^-と空腹時血糖の間に、男性ではNO_2^-と拡張期血圧およびACEと総コレステロールの間に有意な相関が認められた。 今後はPCR法により遺伝子型を調べ、遺伝子多型性の有無により正常コントロール群と遺伝子変異群とに分けて解析を進めたい。
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