炭酸カルシウム(以下、CaCO_3)による「石灰化」を伴ったコレステロール(以下、コ)胆石は、内科的溶解療法に抵抗性となるため、この石灰化の機序の解明は重要であるが、これまで全く不明であった。CaCO_3析出には、胆汁での物理化学的飽和度と胆汁に存在するCaCO_3析出抑制活性の両者が関与すると考えられる。そこで本研究では、コ石の石灰化の成因を探るため、胆汁のCaCO_3飽和度とCaCO_3析出抑制活性に影響する因子を解析した。 1)胆汁中のCaCO_3過飽和度の測定とそれに影響する因子の解析 各種胆石例、非胆石例の胆嚢胆汁のCa^<++>濃度(Ca^<++>電極)、pH、pCO_2(血液ガス分析)を測定、[CO_3^<-->]濃度とCaCO_3過飽和度を計算により求め、ムチン濃度(Schiff法)を定量した。その結果、石灰化コ石例では、非石灰化コ石例や非胆石例に比し、胆汁のpH、[CO_3^<-->]が有意に高く、CaCO_3飽和度は有意に高く、過飽和状態にあることが判明した。胆汁中CaCO_3飽和度は、胆汁脂質やムチン量とは相関せず、胆汁pH値に依存した。 2)胆汁中CaCO_3結晶析出抑制活性に影響する因子の解析 胆嚢胆汁試料に対して、a)脂質除去(isopropanol処理)、b)ゲル濾過(Sepharose4Bカラム)、c)ムチン除去(限外濾過)、d)カルシウム結合蛋白の除去(CaCl_2で沈殿)、等の処置を行い、CaCO_3析出抑制活性の由来を探った。その結果、胆汁中CaCO_3析出抑制活性は、胆汁脂質やムチンに依存せず、分子量5kDのカルシウム結合蛋白がその主な源であることが判明した。 以上、本研究により、コレステロール胆石の石灰化には1)胆嚢胆汁の酸性化障害(pH上昇)に基づく炭酸カルシウム過飽和胆汁の形成と、2)胆汁中カルシウム結合蛋白(5kD)による炭酸カルシウム析出抑制活性が関与していることが明らかとなった。
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