研究概要 |
これまで,私は,膵液中K-ras癌遺伝子点突然変異の検索による膵癌診断の有用性について報告してきた(Jpn J Cancer Res 84:961,1993;Pancreas 12:18,1996)。また,新しくacridinium esterをラベルしたプローブを用いた化学発光によるK-ras変異型の簡便な検出法を開発し(Jpn J Cancer Res(in press)),臨床診断法としてその有用性が期待されている。しかし,これらの診断率は65〜80%前後で100%ではなく,また病理学的には良性とされる腺腫の粘液産生膵腫瘍にも陽性例が存在している。そのため,癌化後に変異が生じるとされているp53癌抑制遺伝子のexon5〜8に関してnon-radioisotopic PCR-SSCP法にて膵液について検索したところ,粘液産生膵腫瘍や慢性膵炎症例には変異はみられず,一方,膵癌症例では45%にp53変異がみられ,さらに,K-ras変異陰性でp53変異陽性の症例もみられ,膵液中のK-rasとp53の遺伝子変異の検索を組み合わせることで,膵癌の診断効率を高めることが期待された。最近,新たな発癌に関連する遺伝子異常として,DNAミスマッチ修復遺伝子(hMSH2,hMLH1,hPMS1,hPMS2,GTBP)の変異が同定され,遺伝性非腺腫症性大腸癌などの原因とされ,microsatellite instability(MI)によるDNAの不安定性と発癌との関連が重要視されている。今回,膵臓癌におけるDNA不安定性の発現頻度を検索した。通常型膵癌5例を対象に,方法は,ホルマリン固定パラフィン包埋された切除膵組織よりmicrodissection法にて,癌部と非癌部のDNAを抽出し,DNAミスマッチ修復異常を反映するmicrosatellite領域(D2S123,D18S58,BAT40,BAT26,D9S63,D9S146,D17S513)のそれぞれに対するプライマーを作成した。これらのプライマーを用いてPCRを行ない,その後グラジエントゲル電気泳動と銀染色により検討した。これらの領域のうち,2つ以上の異常を異常がみられるものについてreplication error(RER)陽性と判定した。5例中3例(60%)にRER陽性であった。K-rasは,5例すべてに陽性であり,p53については現在検索中である。今後,症例数を蓄積して引き続き検討する予定である。また膵液を用いたMIの検討も行う予定であり,K-rasおよびp53の遺伝子異常との関連性ならびにその臨床診断的意義についても明らかにして行く方針である。
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