慢性呼吸不全の重要な予後因子として肺高血圧症の合併がある.肺高血圧症の成因として、組織学的に肺細小動脈の平滑筋層の肥厚が観察され、これらが肺血管抵抗の上昇に関与すると考えられる。近年、レニン、アンギオテンシンII(AngII)、同受容体などからなるレニン、アンギオテンシン(RA)系が、血管壁や心筋局所に存在し、体高血圧症における細胞増殖に関与していることが示唆されている。そこで、本研究では肺高血圧症におけるRA系の役割を調べるために低酸素性肺高血圧ラットモデルを作成し、肺組織におけるAngII受容体及びAngIIの発現を解析した.雄のSDラットを平地で飼育したものを対照群とし、低圧チャンバー内で3日、7日、14日飼育したものを低圧低酸素群とし、各群について以下の検討を行った. 1、肺高血圧症に伴う右室肥大の指標として、左心室と心室中隔に対する右心室重量の比を求めた. 2、肺動脈壁の肥厚を光顕的に観察した. 3、肺組織中のAngII受容体mRNAの発現をノーザンプロット法で、また肺組織中のAngII受容体数を[^<125>I]AngIIバインディングアッセイで検討した.4、 肺組織中および血漿中のAngIIをラジオイムノアッセイで測定した.飼育3日目では右室肥大は明らかではなかったが、14日目では右室肥大、肺細小動脈の中膜肥厚も観察された.正常対照群の肺組織においてAngII受容体のmRNAの発現と、AngII受容体の存在が認められた.低圧低酸素群では3日目にすでにAngII受容体のmRNA及び数の増加がみられ、14日目ではAngII受容体数および組織中AngII量も増加した.しかし、血漿中のAngIIは低圧低酸素群ではむしろ低下する傾向にあった.これらの結果より、肺局所におけるRA系が賦活化され肺高血圧の成立に関与している可能性が示された.
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