本研究の最終目的は、ビデオ強化型顕微鏡であるVEC-DIC (video-enhanced contrast-differencial interference contrast)顕微鏡を用いて培養神経細胞および培養グリア細胞の細胞内小器官の運動を観察し、定性的および統計力学的解析を試みることである。本年度は、ヒ-ティングステージを購入後、VEC-DIC顕微鏡の有効解像力を設定し、本顕微鏡を用いて得ることのできる極めて薄い光学的厚さの断層像を利用してビデオ録画像1フレーム毎の細胞内顆粒移動量(距離)を2次元的に測定して移動速度を算出することを試みた。そのために、先ず細胞内顆粒を豊富に含む血管内細胞を観察した。ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECをカバーガラス上に生着させ培養した。倒置型微分干渉顕微鏡にCCDカメラを接続し、ヒ-ティングステージを装着した観察台に培養細胞HUVECをDMEM灌流下に設置した。CCDカメラにより画像を取り込み、中間変倍を経てイメージプロセッサーで高速画像処理を行いコントラストを強調し、これをビデオシステムに録画した。この方法により2万倍の拡大率が得られ、映像信号の増幅を通して、目に見えない小さな明るさの変化を検出することが可能となる。これよりさらに1フレームの画像を取り出し、画像処理装置により画像のsubtraction、細胞内小器官のサイズ計測などを行い検討した。その結果、ビデオ録画像を1フレーム毎に検討し、画面上の最小ピクセルのサイズが15.6×15.6nmであり、これ以上の大きさの顆粒であれば識別可能であることが判明した。この解像力を利用しHUVECを観察すると、核小体・細胞内顆粒が明瞭に判別でき、細胞内顆粒は活発に運動し一部核内に入り込む像も認められた。また、細胞膜を放射状に広げているfilopodiaおよびlam ellipodiaも明瞭に観察され、実験条件によってはこの細胞膜辺縁が波動様運動rufflingまたは空胞様拡大ballooningを起こすことも確認された。核の大きさは20.2±3.4μm×13.4±2.8μm(長軸×短軸)であった。さらに、本システムのもつ各断層像の高解像度を利用して、single particle tracking methodにより細胞内顆粒運動を2次元的に測定したところ、1-7μm/sの速さで移動していることが判明した。今後、細胞内顆粒がブラウン運動に従うか否かを検定の後、Einsteinの理論式を適用してゆく方針である。
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