ヒトアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子の第16イントロンにおける挿入/欠失多型(I/D)が心血管病の遺伝的感受性に関与する重要な因子であることが報告されている。本研究は、血管壁ACEの病態生理的役割と、ACE遺伝子の挿入・欠失多型が意味する心血管病に関連する遺伝的異常の本体を明らかにすることを目的とした。 1.ACE遺伝子の挿入・欠失多型と関連する心血管病の検索:対照群(296人)、労作性狭心症群(96人)、心筋梗塞群(296人)でのDD型の頻度は、それぞれ13%、17%、22%で対照群と心筋梗塞群でのみ有意差を認めた。また、検診受信者4000人の対象から、マスター2階段テストで陽性であった無症候性心筋虚血患者(71人)について、ACE遺伝子多型は関連を示さなかったが、アポリポプロテインE遺伝子のε4多型が関連を示し、多変量解析でも血圧とともに有意な予測因子であった。脳卒中患者群と対照群の間でACE、アンジオテンシノジェン、アポリポプロテインEに、疾患との関連を認めなかったが、動脈硬化の関与が大きい脳梗塞に限るとACEのDD型が多い傾向にあった。更に、アンジオテンシノジェン遺伝子多型(TT型)とACE遺伝子DD型の組合せでは、脳梗塞群18%は非卒中群4%より有意に高かった。 2.ヒト冠動脈におけるACE発現:ACE遺伝子多型と血中・組織ACE活性との相関が認められており、遺伝子型と血管病変の関連の基礎的検討として、ヒト冠動脈病変でのACEの発現を免疫組織学的に検討した。hypercellular lesionや粥腫性プラークの内膜内平滑筋細胞およびマクロファージにおいて有意なACEの発現を認めた。冠動脈形成術後の反応性内膜においても、修復反応(再狭窄を含む)の強い部位での平滑筋細胞およびマクロファージにおけるACE発現を認めた。
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