本研究代表者らは、平成6年度までに、高血圧自然発症ラット(SHR)およびその脳卒中易発症型ラット(SHRSP)において、交感神経系を含めた種々神経系の形成・維持に重要な役割を果たす神経栄養因子の低親和性受容体(低親和性神経成長因子受容体:LNGFR)をコードする遺伝子にアミノ酸置換を引き起こす点突然変異を見出した。SHR、SHRSPともに、末梢交感神経系の活性亢進および過形成が認められ、さらにそれら交感神経終末で神経栄養因子の一である神経成長因子の反応性に異常が認められることから、変異LNGFR遺伝子がそれらラットの高血圧発症の原因遺伝子の一つと推定される。 本研究では、本態性高血圧患者からもLNGFR遺伝子の変異が見出されるかを検討するため、簡便なる変異検索システム、すなわちヒトLNGFR遺伝子に対するダイッレクトシーケンス法の確立を試みた。まず、ヒトゲノムLNGFR遺伝子のエクソン(6個からなる)の近傍領域(イントロンの両端)の塩基配列をヒトゲノムライブラリーからクローニングしたLNGFR遺伝子クローンから決定した。この結果を基に、エクソンをはさむようなプライマーを数種作製し、エクソン領域をPCR法によって効率よく増幅させ、精度の高い結果が得られるようなPCR用及び塩基配列決定用のプライマーを選択した。これにより、高血圧患者の血液からDNAを調製し、PCR法によってLNGFR遺伝子領域を増幅させ、クローニングを経ずに塩基配列を決定する簡便なる方法の確立に成功した。今後は、この方法を用いて高血圧患者からLNGFR遺伝子変異を検索する予定である。
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