小児がん患者は、診断後厳しい初期治療の開始により、両親の過干渉・溺愛の中で、幼稚さ、生活力のなさを身につける一方、淡白な対人関係や孤独感を表現していることは興味深く、この心理的障害が以後の子どもの精神発達に強く影響していると思われた。この初期の精神環境が継続することで、自己評価が低く、個人の思考過程が阻害されるために、自我統制が発達せず、治療終了後の患児においては、活動性と無気力の混在に混乱するという傾向になったと思われた。比較として検査を行った慢性疾患5例は、やや年齢に偏りがあったが、治療終了後の同年例の患者と比較しても、患者群での自我統制の低さが目立った。これを繰り返している再発患児らは、それまで混乱しながらも存在していた活動性やエネルギーがなくなり不安、無気力、現実逃避などを表現していることは、病気の進行とともに自己評価、自分の病気の理解が子どもの年齢に関わらず同様に変遷していっていることが考えられた。また、病初期において、両親の過干渉にも関わらず、孤立感を表現していることは、苦痛の多い治療を進めるにあたり患児本人への病態、治療の説明がなお不充分であったことが原因とも考えられた。 小児がんの治癒が望める様になってきた現在、厳しい長期治療を行うにあたり、小児の成長発達を考えながら親子関係を保ち、本人への充分な説明を行いながら受け身ではなく、患児を一緒に治療に参加させていくことで、心理的障害が最小限となり、治癒後の社会生活に適応しやすい発達が促されるものと思われた。今後同一症例における心理テストの観察期間・症例数を増やし、さらに、治療終了後の患児らへのインタビュウを行う形で彼らが受けた心理的障害を具体的に確認し、小児患者本人への真実の説明の必要性を明らかにしたいと考える。
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