円形脱毛症患者より得られた、4mmパンチ生検皮膚を用いて、まず病理組織学的検索を行った。対象としたのは、36歳から58歳までの円形脱毛症患者5例(男3例、女2例)である。この検討では、これまでの報告同様、全例に、毛包の退行性変性とともに程度の差こそあれ毛包周囲にリンパ球浸潤が認められた。免疫組織学的検討では、浸潤するリンパ球は、CD8陽性のサプレッサーT細胞であることが確認された。さらに、リンパ球と毛包との接着に関与すると考えられるICAM-1の局在についての検索では、毛包下部から毛母細胞に弱い発現が見られた。5例中3例においては、生検した円形脱毛症の毛包下部組織をホモジェナイズし超遠心にかけて細胞分画を作製した。しかしこの過程で、作製された細胞分画が、毛包組織のどの細胞成分からなるかを、電子顕微鏡下および免疫組織学的手法により明らかにしようとしたが、組織の破壊が大きく、また毛包以外の真皮成分等の混入のため、毛母あるいは内・外毛根鞘といった細胞成分を特定するには至らなかった。このため、予定していた、これら細胞分画とリンパ球とを反応させる実験の結果は得られなかった。今後の課題として、円形脱毛症患者の正常毛包を採取し、実体顕微鏡下に毛包組織のみを可及的に取りだした後に、遠心をかけるなどの実験手技の修正が必要と考えられた。また、今回の課題の研究期間内には着手ができなかったが、当教室で行っている毛包組織の器官培養法を用い、円形脱毛症患者の毛包と患者リンパ球とを培養し、毛包組織の破壊が経時的にどのような過程で起こるかを、組織学的に確認する実験も行う必要があると考えられた。
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