これまでの検討で、肥満細胞を線維芽細胞と共に培養する系で、KCMH-1の培養上清を添加すると肥満細胞の増殖が生じることが明らかとなっている。今回、可溶性物質が通過できる合成樹脂膜で肥満細胞と線維芽細胞とを隔絶し、同一培養容器内で培養する系を用い、KCMH-1の培養上清の添加により肥満細胞の増殖が起こることが確認された。培養容器内線維芽細胞が存在しない場合には、KCMH-1培養上清による肥満細胞増殖は生じなかった。このことよりKCMH-1の培養上清中の因子は線維芽細胞を刺激して肥満細胞増殖因子を産生させることが考えられ、またその因子の少なくとも一部は培養液中に遊離されていることが示唆された。現在までに知られている線維芽細胞由来の肥満細胞増殖因子としては幹細胞刺激因子(Stem cell factor; SCF)があり、肥満細胞上に発現するc-kit遺伝子産物を介して肥満細胞に増殖刺激を伝達する。そこでKCMH-1培養上清は線維芽細胞に作用してSCFの発現を誘導する可能性が考えられる。しかし、肥満細胞と線維芽細胞を膜で隔絶して培養する系でのKCMH-1培養上清による肥満細胞増殖活性は、抗SCF抗体で中和されず、またc-kit遺伝子に変異を有しSCFに対する反応性を欠如する肥満細胞においても同様の培養系で増殖反応が認められ、KCMH-1培養上清によって線維芽細胞上に誘導される肥満細胞増殖因子はSCFとは異なる可能性が考えられた。 これまでに、肥満細胞は線維芽細胞との相互作用によって増殖、および分化が生じることが知られているが、その現象の多くの部分はSCFで説明されている。しかし実際には生体内でみられる流血中の先駆細胞から肥満細胞への分化はSCF単独では実現できない。我々の想定するSCF以外の線維芽細胞由来肥満細胞増殖因子が、この点についての解決の糸口になる可能性に期待している。
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