本研究の目的は臨床例において、脊髄圧迫時の動態の変化をMRIにより定量的に評価し、臨床症状との相関を評価することにある。 脊髄圧迫症例25例において、脊髄動態の計測を行った。脊髄動態の計測はスピンエコー法の位相画像を用いて行い、傾斜磁場強度の調整により1.8cm/secの速度が180度の位相変化となるようにパルス系列を設計し、このパルス系列を用いて心電図同期下で脊髄の横断画像を3断面撮像した。データ収集の開始もタイミングを心電図のR波から25msecずつずらして撮像し、合計16点でのデータを収集した。これらのデータを臨床症例のスコアと比較・検討を行った。 脊髄の上下動の時相の変化は、圧迫例においては正常例と比較して遅れる傾向を示したものの臨床スコアとの相関は明らかなものではなかった。フーリエ解析によるものでも統計的に有意な相関は得られなかった。これは傾斜磁場印加による速度計測が約28msecの平均であることにより時相変化を定量評価するには時間分解能が不足していると考えられる。この問題の解決にはより高い傾斜磁場が必要であり、EPIに対応したMR装置が必要であろう。一方上下方向の最高速度は軽度圧迫例で正常よりも速くなる、という結果が得られた。これは正常脊髄が上下方向のみならず前後方向にも動いており、軽度の圧迫により前後方向の動きが制限されるためベクトルとして上下方向の成分が増すものと推察された。中等度以上の圧迫ではこれに加えて上下方向の動きにも制限が加わると考えられる。これらの軽度圧迫症例の速度の増分と手術後の回復の度合いの相関の評価が課題であると考えられる。
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