平成7年度我々は、脳内に存在する乳酸を直接生化学的に測定できる唯一の非侵襲的方法であり、かつ近年臨床応用が急速に進んできている^1H‐MRS(磁気共鳴スペクトロスコピー)を用いて恐慌性障害患者及び正常被検者における脳内乳酸濃度を調べ、更に光刺激を用い視覚皮質を賦活化させることによって、両群における後頭葉領域の乳酸をin vivoで継時的測定し、脳内乳酸の産生及び代謝機構の障害の有無について検討を加える予定であった。そのためまず光刺激装置を自作にて作成し、正常被検者に関して、^1H‐MRSを用い脳内乳酸の検出を行った。しかし、脳内乳酸の検出に個体差があり、かつ我々と同じ結果となったとする報告が出ていることから、^1H‐MRSを用いた脳内乳酸の検出をあきらめ、^<31>P‐MRSを用いて、光刺激前後のクレアチンリン酸(PCr)及び脳内pHの変化を検討することに修正した。そのため本年度は正常被検者のみの測定となった。 結果は、光刺激によって、PCrは低下し、脳内pHは上昇することがわかった。以上より、光刺激のよって視覚皮質が活性化され、エネルギーが消費されることが確認された。更に、光刺激によって生じる乳酸の生成による酸の産生よりも、Na/Hアンチポートの活性化による細胞内pHの上昇の効果の方が大きいために、細胞内pHが上昇することがわかった。これらの結果は、これまでに報告されたものが1つにかなく価値のあるものと思われる。今後は、恐慌性障害患者においても同様の検討をしていく予定である。
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