学会、研究会などを通じ当教室でのプリオン遺伝子解析について各方面へ周知された結果、本年、6例のCJD患者の遺伝子解析をおこなうことが出来た。この6例はいずれも痴呆や視覚障害、片麻痺などの大脳巣症状などで初発し、精査中に急速に痴呆が進行し、ミオクローヌスや脳波上PSDも出現するなど、典型的なCJDが疑われた時点で、患者家族の同意のもとに患者末梢血を採取したものである。各々即刻当教室に送付され、白血球から迅速法を用いてDNAを抽出した。このDNAを、プリオンタンパク遺伝子(PRNP)領域をはさんだプライマーを用いてPCR法で増幅し、増幅したDNAフラグメントに制限酵素BsmAlを作用させた。その結果、山梨県出身で関東在住の2症例(内1例は河内、小田原ら;日本神経学会関東地方会)と、静岡県富士市在住の1例、計3症例はDNAフラグメントが2つに切断されず、コドン200にグルタミン酸がリジンとなる変異をもつとみられた。さらに診断を確実にするために、増幅されたDNAフラグメントがコドン200に変異がある場合のみ、制限酵素Bxtlで切断されるように設計したミスマッチプライマーを用いてPCRをおこない、やはり同様の変異を確認した(宮川、小田原ら;行動遺伝研究会)。この内の1例は兄がCJDで死亡している家族例であった。この地域と無縁の3例ではコドン200異常を認めなかった。なお、いずれの症例も解析中にも病状は進行し早期に失外套状態に至っている。今回関東在住のCJD症例でコドン200異常を有する2例はいずれも山梨県出身者であった。こんことはコドン200異常と富士川流域との強い相関を予想させるが、コドン200異常は同一家系内でもCJDの発症年齢に開きがあり、その日本における浸透率などさらに症例を蓄積し検討する必要があると考える。パラフィン包埋標本については現在解析中である。
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