われわれはこれまでの研究でアルコール依存症患者においてアルコールの急性離脱期にACTHの過剰分泌を伴わない高コルチゾール血症が出現するが、断酒後1週間以内に消腿すること、また高コルチゾール血症の程度が離脱症状の重篤度と正の相関を示すことを明らかにした。このような高コルチゾール血症の原因として、副腎皮質の肥大の存在を推測している。この仮説の実証のためにアルコール依存症患者のアルコール離脱初期における副腎の肥大ならびにその時間的経過を解明するために本研究を行った。 断酒治療目的で入院した男性アルコール依存症患者で、本研究の目的と方法、予想される結果と侵襲等についてインフォームドコンセントの得られた55才未満の者23名を対象にして入院2日目と1カ月目の2回にわたり、採血と腹部のCT検査を行い、副腎の総体積と血漿ACTH値と血清コルチゾール値を測定し、年令をマッチさせた10名の健常男性の各値と比較した。 アルコール依存症患者の総副腎体積は健常者と比較して、入院2日目から1カ月目まで高値が持続していた。入院2日目の血清コルチゾールは高値を示し、総副腎体積と正の相関関係を示したが、血漿ACTHは低値を示した。入院1カ月目には血清コルチゾール値、血漿ACTH値ともに健常者の値まで回復していた。 これらのことより、アルコール依存症患者では慢性飲酒の結果、断酒直後においては視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系の機能亢進がみられ、副腎皮質は肥大している可能性が、また、断酒1カ月目においてはHPA系の機能は正常化するが副腎皮質の肥大という形態学的異常はなお持続している可能性が示唆された。
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