Green fluorescent protein(GFP)を用いた自家蛍光標識レトロウイルスベクターを構築するためにまず、血液細胞においてGFPを発現させるにはどのプロモータが適当か、また野生型GFPとある点突然変異を持つGFP(S65T)のどちらが強い蛍光を発するかを検討した。血液細胞にゲノムあたり1コピーのGFP遺伝子を組み込む条件下では、1.検討したプロモータのうち、retrovirus long terminal repeat promoterとcytomegalovirus early promoterによる発現は不十分だが、SRαpromoterおよびβ-actin promoterによる発現は良好である、2.野生型GFPよりS65Tの方が蛍光強度において優れている、という結果を得た。以上より、SRα-S65Tを発現カセットとしてMSCVレトロウイルスに組み込んだベクター(MSCV/SRα-S65T)を構築した。 MSCV/SRα-S65TをGP^+E86パッケージング細胞にトランスフェクトして得たウイルス産生細胞集団から、GFPの蛍光を指標にセルソーターで高ウイルス力価のものを選別し得た。選別したウイルス産生細胞との共培養感染法により、マウス白血病細胞株とマウス初代骨髄細胞にそれぞれ約10%の頻度でGFPを発現させることができ、GFP発現細胞をセルソーターで分取することに成功した。分取した骨髄細胞を致死量放射線照射したマウスに注射したところ、得られた脾コロニー(CFU-S_<12>)の大部分が蛍光を発しており、MSCV/SRα-S65Tが未分化な造血幹細胞に感染して機能を発現したことが確認された。以上の結果は、GFPが造血幹細胞の標識に使用できることと、これを用いて外来遺伝子が導入された細胞だけを短期間に選別分取できることを示しており、血球分化・増殖の動態解明と遺伝子治療の研究に画期的な手段を与えるものである。
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