PU.1遺伝子はEtsファミリーに属する転写因子をコードし、Friendウイルス誘発のMEL細胞においてはプロウイルスの挿入により活性化されている。申請者らは、MEL細胞にPU.1遺伝子を高発現すると増殖抑制、分化抑制、およびアポトーシスによる細胞死が誘導されることを見い出した。そこで本研究においては、アポトーシス解析を中心とした実験を進め以下の結果を得た。 1、アポトーシスの性格付け:FACSによる解析から、アポトーシス誘導に先立ち細胞周期はG1期において停止することが示された。また電子顕微鏡により、アポトーシスの特徴とされる核周辺部へのクロマチンの凝集が観察され、細胞形態学的にもこの細胞死がアポトーシスであることが確認された。 2、アポトーシス関連遺伝子の発現変化:このアポトーシスの誘導過程においてbc1-2、c-myc、p53遺伝子の発現は減少することが、またp21、ICE、bc1-Xs遺伝子の発現は増加することが、さらにbc1-X_L遺伝子の発現には変化がないことがノーザン法あるいはRT-PCR法により示された。 3、アポトーシスの誘導、増殖抑制、分化抑制に必要なPU.1タンパク質上の領域の決定:PU.1タンパク質のEtsドメインに相当する領域を欠失した変異PU.1遺伝子をMEL細胞で高発現させたところ細胞増殖は抑制されず、アポトーシスは誘導されなかったがMEL細胞の分化マーカーであるβ-グロビン遺伝子の発現は誘導された。一方、転写活性化ドメインに相当する領域を欠失した変異遺伝子を高発現させたところ、細胞増殖の抑制は認められず、アポトーシスもβ-グロビン遺伝子の発現も誘導されなかった。これらの結果から、アポトーシスの誘導および細胞増殖の抑制にはEtsドメインと転写活性化ドメインの両者とも必要であるのに対し、分化の抑制には転写活性化ドメインは必要ではないと推察された。
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