糸球体高血圧や糸球体肥大に伴って生じる末梢係蹄壁に対する伸展刺激は糸球体障害因子のひとつと考えられている。糸球体構成細胞のうち、GENはメサンギウム細胞に比し末梢係蹄壁の伸展の影響を受けやすいと考えられることから、GENに対する直接的伸展刺激が、糸球体内renin-angiotensin(R-A)系におよぼす影響を検討した。牛腎糸球体から糸球体内皮細胞をクローン化しこれを伸縮性の高いシリコン膜上で培養し、このシリコン膜を伸展することによりGENに対する伸展刺激の系とした。dishを10あるいは20%伸展させると、GENも張力方向に同程度伸展されることを確認した。そこで伸展GENにおいて、1)内皮細胞としてマーカーおよび増殖能を、アセチル化LDLの胞体内への取込みと^3H-thymidine uptakeの測定により、2)angiotensinogen(Atg)およびangiotensin converting enzyme(ACE)の誘導をNorthern blot法により、3)培養medium中へのAtg peptideの放出量を過剰量レニンによる変換後Angiotensin IについてのRIA法により、4)メサンギウム細胞に対する伸展刺激によるAtgおよびACEの誘導をNorthern blot法によりそれぞれ解析した。伸展GENはアセチル化LDLを胞体内へ取込み、かつ非伸展GENと同様良好な増殖活性を示した。AtgおよびACEのmRNAレベルは伸展後24時間で伸展率依存的に上昇する事から、糸球体内皮細胞では持続的な伸展刺激により、AtgおよびACEの遺伝子発現が増強することが示唆された。また伸展刺激により内皮細胞からのAtg放出量も増加することからmRNAレベルとともに蛋白レベルにおいてもAtgの発現増強が確認された。更に糸球体内皮細胞とは対照的に、メサンギウム細胞ではAtgおよびACEmRNAの発現増強は認められなかった。以上の結果から糸球体毛細血管係蹄壁に対する伸展刺激は糸球体内皮細胞におけるAtgおよびACEの発現増強を介して、糸球体局所のR-A系の活性化に寄与している可能性が示唆された。
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