末梢肺血管の血流はポワゼイユ流に近く、当然血液粘性の影響を強く受ける筈である。しかし、現在、肺高血圧症(PH)の指標として多用される肺体血管抵抗比(Rp/Rs)は単に流量、圧力のみに基く指標で、血流の粘性の影響が全く加味されていない。そこで、血液の粘性を考慮した無次元の肺血管抵抗係数(λP)によるPH評価の可能性につき検討した。 1.健常例、高度PH症例を含む10症例を研究対象とした。 2.λPは以下の(1)式により求めた。 λP=(ΔP)/(U・μ)・(D^2)/l×133・・・(1) ここで、ΔPは平均肺動脈圧、Uは平均肺動脈内血液速度、μは血液の粘性係数、D^2は体表面積、lは身長である。 ΔPとUは通常の心カテ時にmultisensor catheterにより測定した。またμは回転粘度計(viscometer)により実測した。尚、PH症例には左右短絡疾患症例が多く、熱稀択法による心拍出量の測定が不可能なため、従来のRp/Rsに代る指標として次式より肺血管抵抗単位(PRU)を求めた。 PRU=(ΔP)/U 3.研究対象例のλPは0.63×10^6から8.24×10^6に及び、その平均は3.05×10^6±2.44×10^6であった。一方、PRUは0.26〜2.29でその平均は0.9±0.66であった。 4. PH群のλPとPRUは健常群のそれよりも供に高値を示した。更にヘマトクリット値が高く、血液粘度が高値を示したPH症例と正常のヘマトクリット値をを示したPH症例ではPRUは前者が、λPは後者が高い傾向を認めた。 以上から、特にヘマトクリット値が高値を示す高度肺高血圧症例では肺血管病変の把握に血液の粘性に影響されないλPは有用な指標となることが強く示唆された。
|