当初予定していたより多い30頭以上の雑種犬について、実験を行った。弁付導管を右室と肺動脈の間に介在されるという性質上、右室流出路内のフィラリヤがあまりにも多い例等では導管の閉塞する例がみられ、10例以上を術後1日から1週間で失った。失敗例を除き、最終的に20頭分の雑種犬についてデータを得た。皮下より採取した脂肪組織を高有孔性人工血管に藩種し、自己心膜による一弁を内部に縫着した。20頭中8頭では弁表面にファイブロネクチンを塗布して細胞吸着の促進を試みた。人工血管の内膜治癒は3週間目でほぼ完成していた。ファイブロネクチンを塗布しない群では表面は3ケ月目においても露出しており、内皮細胞の吸着はみられなかった。弁は1ケ月目までは良好な可動性を示したが、その後固定化が進み、2ケ月後以降はその機能をほとんど失っていた。ファイブロネクチンを塗布した群では弁機能の推移は塗布した群を同様であった。1ケ月後以降の固定化が進んだ弁では表面はほぼ完全に内皮細胞で覆われていた。特に2例においては、弁は人工血管壁に癒着し、人工血管と弁が一体となって、滑らかな内腔面を形成していた。弁機能は術後急性期を乗り切るには十分な役割を果たすものと思われた。遠隔期においてはファイブロネクチンを塗布した群では弁も含め、導管内部は全て、内皮細胞で覆われており、内膜肥厚、血栓形成等による導管狭窄や感染性心内膜炎等の合併症は軽減できるものと考えられた。今後はこれをさらに発展させる目的で高有孔性人工血管の代わりに吸収性素材を使用し、より生理的条件に近い導管の作成を試みるべく、現在3頭ほど実験を行い結果を観察中である。
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