本研究の目的は治療が困難な脳腫瘍の一つであるα-fetoprotein(AFP)産生悪性胚細胞腫に対する遺伝子治療の開発で、AFP promoterおよびその下流に前駆体型Diphtheriatoxin遺伝子を組み込んだレトロウイルスを作成し、SCID mouseに移植したAFP産生human embryonal carcinomaに選択的に不活性な前駆体型Diphtheria toxinを発現させ、腫瘍細胞のprocessing enzyme furinでこれを活性化し、腫瘍細胞を選択的に傷害する予定であった。しかし、当初予定していた不活性型Diphtheria toxinを発現させると発現されたtoxinはfurinでprocessingを受けた後、細胞外に感染型toxinとして分泌され、周囲の細胞がむしろ傷害される危険性が高いことが判明した。そこで自殺遺伝子として広く用いられているherpesthymidine kinase遺伝子をAFP promoterの下流においた発現ユニットを用いて自殺遺伝子を腫瘍細胞に選択的に発現させ、傷害する方法を検討し、ベクターとして感染効率が高く、高濃度のウイルス液が作成可能な非増殖型adenovirusを用いることとした。adenovirusは東京大学医科学研究所、斉藤泉博士より供与されたadex 1 cwを用い、発現ユニットをadex 1 cwカセットコスミドに組み込んだ後、非増殖型adenovirusが増殖可能な293細胞に感染させ、目的とする非増殖型recombinant adenovirusが得られた。現在virus精製中で、今後in vivo実験に入る予定である。また、furin mRNAのnorthernblottingでは、まだ正常脳組織のcontrolが無く、験体が少ないため、現在のところ発現量に関して一定の知見は得られていない。
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