研究概要 |
脳虚血や外傷時には神経細胞から放出されたグルタミン酸が興奮性神経毒として働き,組織障害を増強させる.グルタミン酸トランスポーターは細胞外のグルタミン酸を回収し,細胞外グルタミン酸濃度を興奮毒性以下に保つ役割を有している.網膜虚血後では,グルタミン酸トランスポーターの一つであるGLAST mRNAの発現増強が報告されており(Otoriら,Mol.Brain Res.,1995),GLASTが虚血後の環境修復に大切な働きを有すると予測された.今回私は,脳室周囲白質に虚血性病変を生じるカオリン水頭症モデルを用い,虚血性変化とGLAST mRNAの発現の関連をin situ hybridization法等で検討した.カオリン水頭症急性期において,脳室は進行性に拡大し,脳室周囲白質には髄液浸潤による浮腫が確認された.髄液浮腫による白質の虚血性障害のため,水頭症亜急性期から慢性期には,白質線維の萎縮やグリア細胞の増加を認めた.GLAST mRNAは,水頭症急性期において脳室上衣下から脳室周囲の小型細胞に著しい発現を認めた.亜急性期から慢性期にかけてこれらは徐々にコントロールレベルへ復帰した.発現細胞を同定するために,in situ hybridization法と抗GFAP抗体を用いた免疫染色を併せて行った結果,GLAST mRNAは,反応性アストログリアに発現していることが明らかになった.カオリン水頭症急性期には,髄液浮腫による白質の損傷がグルタミン酸漏出を招き,更なる神経線維の障害,グリオーシスをきたす.細胞間隙に増加したグルタミン酸を処理する目的で,反応性アストログリアにGLAST mRNA発現が亢進したもとの考えられた.実験水頭症モデルを用いGLAST遺伝子と脳虚血病巣との関連を明らかにし,また発現細胞をin situ hybridization法と免疫染色のcombined methodで同定した報告は過去に認めず,新たな知見と考えている.
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