ヒト卵巣奇形癌より樹立された株細胞PA-1/NRは、培養条件により細胞凝集体(Spheroid)を形成し、その内部に神経管形成を模倣する神経ロゼットを形成する。これがヒト神経管形成のin vitroの実験モデルとなり得る点に着目し、細胞外基質(ECM)そのレセプターの一つである細胞間接着分子β1インテグリンの神経管形成における機能を検討した。 実験1 PA-1/NR Spheroid形成過程の異なった時期にβ1インテグリンの機能を単クローン抗体(機能中和抗体)SG-19にて阻害し、神経ロゼット形成に及ぼす影響を検討した。 1群)Spheroid培養開始時よりSG-19添加 2群)Spheroid培養開始より1週間後にSG-19添加 3群)Spheroid培養開始より2週間後にSG-19添加 4群)SG-19無添加 以上4群の培養系を設定し、全ての系は培養開始より3週間後に回収、組織学的に検討された。1群)では神経ロゼットの形成は完全に阻害され、細胞は、無秩序、散在性に存在するのみであった。2群)、3群)では、神経ロゼット形成過程を示すと思われる細胞の管状配列が出現した。コントロールである4群)では、基底膜様構造に裏打ちされた完全な神経ロゼットの形成を認めた。 実験2 実験1の1群)、4群)におけるラミニンの存在様式を免疫組織学的に比較検討し、神経管形成に必須であると考えられる基底膜形成に及ぼす、β1インテグリンの機能を検索した。4群)では神経ロゼットを形成する細胞を裏打ちする型で線状にラミニンが存在したのに対し、β1インテグリン機能を阻害した。1群)では、ラミニンは細胞間隙に散在性、無秩序に存在した。 以上の実験より、ヒト神経管の形成においてβ1インテグリンの機能は必須であり、それは単に基底膜構成分子に細胞を接着させるのではなく、基底膜自体の生成にも深く関与していることが示唆された。
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