1.卵巣癌組織において、免疫組織化学的手法を用いてGlutathione S-transferase π (GST-π)の発現の有無とCDDP併用化学療法の反応性との関連を検討し、またFluorescence in situ hybridization法でGST-πの存在する11番染色体の変異が卵巣癌の悪性度の指標となり得るかどうか検討し、以下の結果を得た。卵巣癌患者の5年生存率は、GST-π陽性群と陰性群でそれぞれ26.8%、75.0%であり、前者で有意に低率であった。卵巣癌患者の5年生存率は、摘出卵巣癌組織で11番染色体の数の異常を示す細胞が20%以上を占める場合と20%未満である場合でそれぞれ25.6%、61.4%であり前者で有意に低率であった。従って、GST-π発現の有無と11番染色体の数の異常の出現頻度は卵巣癌患者の予後を予測する上で有用な因子になり得ることが示唆された。 2.卵巣癌組織において、GST-πの発現を制御している癌遺伝子産物c-JUNがCDDP耐性と関連があるかどうかを免疫組織化学的手法を用いて検討した。GST-π陽性群でc-JUN陽性は78.9%、GST-π陰性群でc-JUN陽性は31.2%であり、卵巣癌組織でGST-πの発現とc-JUNの発現の間に有意な関連を認めた。さらにc-JUN陽性卵巣癌患者の5年生存率は30.5%、c-JUN陰性卵巣癌患者では75.0%であり、陽性群で有意に低率であった。以上からc-JUNの発現はCDDP耐性と関連があり、卵巣癌の予後因子の一つになり得ることが示唆された。
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