研究目的:(1)妊娠中毒症の動物モデルの作成。(2)妊娠中毒症における胎盤組織障害へのNOおよびフリーラジカルの関与の解明。 研究方法:(1)Wistar系妊娠ラットに妊娠10日目からNOS inhibitorであるL-NAME(L-NAME群 n=10)または生理的食塩水(saline群 n=14)をosmotic pumpにより持続投与した。妊娠21日目に開腹し、血液・胎仔・臓器(胎盤、母獣肝臓・腎臓)を採取し、それぞれを血算・フィブリノゲン定量、体重計測、HE染色ならびにPTAH染色に用いた。(2)妊娠14週未満の中絶胎盤絨毛(n=8)および妊娠22週以降の妊娠中毒症症例(n=4)と正常例(n=7)の娩出胎盤を用いてcNOSおよびiNOSのmRNAの発現をNorthern blot法により、比較検討した。解析ではP<0.01を有意とした。 結果:(1)L-NAME群ではsaline群に比較し、妊娠21日目で(1)平均29.5mmHgの血圧上昇、(2)白血球増多、(3)14.5%のヘマトクリット上昇、(4)血小板数減少、(5)フィブリノゲン減少、(6)蛋白白増加、(7)平均0.99g(24%)の胎仔発育遅延、(8)胎盤絨毛間腔の狭小化、ならびに9)肝小葉間静脈および腎糸球体へのフィブリン沈着が認められた。(1)cNOSのmRNAについては全ての症例に発現が認められたが初期、妊娠中毒症、正常の各群間に有意の差を認めなかった。iNOSのmRNAについては発現が確認できなかった。 結論:(1)L-NAMEの持続的投与によって臨床的・血液学的・病理組織学的に妊娠中毒症に類似した病態が作成された。したがって、NO生成の異常(減少、阻害)が中毒症の病態形成に密接に関与する可能性が示唆された。(2)成績は不十分であり、方法論的に再検討を要すると考えられた。
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