健常男性の精子におけるカルパインの存在とその意義を、以下の実験法によって検討した。 (1)免疫組織染色法によるカルパインの解析 ヒト精子を用いて免疫組織染色法を行ったところ、抗μ-カルパイン抗体による特異的な染色が認められたが、抗m-同抗体には免疫染色されなかった。抗μ-N末端抗体により頭部が免疫染色され、その染色性はA23187処理によって経時・経量的に尾部へ移行する傾向を示」した。また活性型に特異的な抗活性中心抗体により尾部が免疫染色され同処理によって染色性が増強した。 (2)SDS-PAGE・ウエスタンブロッテッング法による測定 調整した精子を超音波破砕装置を用いた後に遠心処理し、ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、ニトロセルロース膜に電気的に転写してエンザイムイムノアッセイを行い、カルパインの抗原性、及び活性化の状態を抗μ-N末端抗体を用いて検索した。同抗体による染色性がA23187処理によって減少し、同処理によって精子内のμ-カルパインが活性化されている事が認められた。 (3)精子内カルパイン活性のカゼイン分解能による測定 簡易法として、カゼインを基質とした分解活性によりカルパイン活性を測定したところ、カゼイン分解能はA23187処理によって減少し、同処理によってカルパインが活性し自己消化を起こした事が認められた。 以上より、ヒト精子にμ-カルパインが存在する事を明らかにした。また、カルパインがヒト精子において細胞内カルシウム濃度の上昇に伴う生殖現象に重要な役割を演じており、新しい精子受精能の指標となりうる可能性が示唆された。 現在、精子先体反応、精子受精能及び精子運動率と、各種抗カルパイン抗体染色率、染色部位との相関関係を検討中である。
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