研究概要 |
通常神経細胞においては再生は起こらないとされているが、嗅細胞は変性の後、あるいは通常状態においても常に再生を行う特殊な神経細胞である。この再生母細胞は従来基底細胞とされてきたが、われわれは基底細胞の直上に存在する分裂細胞が、幹細胞であるとしてきた。この分裂細胞に関する報告は未だ少なく不明な点も多い。今回はこの分裂細胞の経時的変化について観察した。実験動物としてはモルモットを用いた。生後2,3,4,6,12,24,30,36カ月のモルモットよりより嗅上皮を採取し、分裂細胞の指標として増殖細胞核抗原(P.CNA)を用いて免疫組織化学染色を行った。結果として、生後2カ月の幼弱モルモットでは嗅上皮内の基底層に多数の分裂細胞がほぼびまん性に認められたが、生後3カ月より徐々に減少し、4カ月になると分裂細胞数は一定となり、またその分布様式も分裂細胞の密に存在する部分(active zone)とほとんど存在しない部分(quiescnet zone)とがはっきりと分かるような形で存在するようになった。分裂細胞数と分布様式はその後生後24カ月まで一定であった。生後30カ月になると分裂細胞数は有意に減少し始め、それに伴ってactive zoneも不明瞭となる。さらに生後36カ月では分裂細胞は著明に減少し基底層にまばらに認めるのみであった。モルモットの寿命は平均4〜5年といわれており、36カ月(生後3年)はそれなりに高齢であると思われるが、再生能力の旺盛な動物の嗅上皮においても加齢の及ぼす影響の大きさが窺えた。ところで、加齢に伴う分裂細胞の変動とは無関係に嗅細胞の数はほぼ一定になっていることも分かった。嗅細胞数を一定にする機構の存在が以前より示唆されており、今回の実験結果もこれを支持するものであった。今後嗅上皮における嗅細胞のアポトーシス(細胞の自殺死)を研究する(平成8年科研にて申請中)などによりこの点をさらに明らかものとしたい。
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