1)肺転移症例の予後調査 現在、金沢大学附属病院耳鼻咽喉科にて過去7年間治療をうけた腺様嚢胞癌症例についての予後を再検討したところ、全18症例のうち死亡例5例、担癌生存は4例で非担癌生存は9例であった。肺転移症例は死亡例、担癌生存例の内7例にみられた。肺転移の平均出現期間は治療後2.2年(1年-6年)であった。このうち頸部リンパ節転移がなくて肺転移をおこしたものは7例中、5例であった。これは頭頚部で一般的な扁平上皮癌が頸部転移をおこしてから肺転移をおこすのとは異なっていた。 2)腫瘍組織の免疫組織化学的検討 過去の症例の、パラフィン包埋標本からCD44、E-セレクチンとE-カドヘリンなど細胞接着因子に重点をおいて検討した。肺転移例では7例中5例にCD44陽性で非転移例では12例中3例にみられ有意に陽性率が高かった。E-カドヘリンでは未分化な細胞での発現低下がみられた。E-セレクチンは染色不良例が多く評価不能であった。 3)総括 上記の結果から腺様嚢胞癌においては癌細胞相互の接着の低下とその後いくつかのステップを経て、肺転移をおこす機構が存在することがわかった。その候補としてCD44の発現が有力であるこがこの分子のみによって制御されているとは考えにくい。頭頚部扁平上皮癌では頸部リンパ節転移が先行するものが多いので、腺様嚢胞癌では血管浸潤が先におこってそれから体循環にはいり何らかの理由で肺転移がおきるわけだが、その理由づけとしてCD44分子の発現を指摘できたので、今後はこの分子の発現量と転移の頻度について検討する予定である。
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