(1)各種組織におけるリンパ球の結合部位とICAM-1陽性部位:炎症中耳粘膜では、脾臓あるいはパイエル板リンパ球の結合は、幼若な新生血管内皮細胞に多数認められた。正常鼻粘膜や小腸粘膜では粘膜下組織の腺房細胞の周囲や血管内皮細胞への結合も認められた。しかし、鼻粘膜上皮や消化管の絨毛上皮への結合はほとんど認められなかった。ABC法による検討では、炎症中耳粘膜においては新生血管内皮細胞は抗ICAM-1抗体に陽性であり、正常鼻粘膜や小腸粘膜においても抗ICAM-1抗体陽性の血管内皮細胞が散見された。また、唾液腺組織では導管上皮細胞周囲の結合組織にも陽性部位が認められた。 (2)各種分画リンパ球の粘膜組織および唾液腺組織への結合:炎症中耳粘膜では、全分画・B細胞分画パイエル板リンパ球の結合数は、脾臓リンパ球に比べ有意に高値であった(P<0.05)。鼻粘膜でも、パイエル板リンパ球の結合数は、脾臓リンパ球に比べれば全分画とB細胞分画それぞれが有意に高値であった(P<0.05)が、上咽頭粘膜や気管粘膜では有意差は認められなかった。 (3)抗ICAM-1抗体処理によるリンパ球結合の抑制:炎症中耳粘膜では、全分画およびB細胞分画リンパ球ともに結合数はコントロールに比べ有意に抑制された(P<0.005)。しかし、鼻粘膜や上咽頭粘膜、小腸粘膜、唾液腺組織では結合が抑制される傾向は認められたが、有意差は認められなかった。 (考察)炎症中耳粘膜では、新生血管内皮細胞への多数のパイエル板リンパ球の結合が認められ、同様のBリンパ球特異的な結合因子の存在が推測される。今回の検討では、炎症中耳粘膜の新生血管内脾細胞や唾液腺組織においてICAM-1の発現とリンパ球の結合部位の共通性のある部位が認められた。さらには抗ICAM-1抗体処理により、炎症中耳粘膜における全分画およびB細胞分画リンパ球の結合数はコントロールに比べ有意に抑制された。これらのことより、ICAM-1の発現とリンパ球の結合には関連があり、その発現がリンパ球結合に及ぼす影響は、炎症組織において、より著明であることが推測された。しかし、他の正常鼻粘膜などにもパイエル板リンパ球がより有意に結合する部位も認めており、血管内皮細胞に認める結合因子とは異なった結合因子の存在の可能性が推測される。
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