目的:私は実験的水晶体起因性ぶどう膜炎(ELIU)の簡便な惹起方法を確立し、さらにウシ水晶体と交叉抗原性を有するウシ肝臓可溶性タンパクの免疫により、ELIUが惹起可能であることを報告してきた。臨床的に遭遇する水晶体起因性ぶどう膜炎は、ACAIDが破綻した状態で水晶体の損傷により感作される場合と、水晶体と交叉抗原性を有する臓器の炎症や 損傷により自己抗体が産生された状態で水晶体の破嚢が起こる場合の2つの機序があると考えらるが、後者の機序の可能性を実験的に証明する為に、肝臓障害ラットを用いた、ELIUの誘発性を検討した。 方法:8週令のルイス系ラット(N=4)にthioacetamideを10mgずつ腹腔内に注射し同時に百日咳死菌2×10^<10>個を静注した。注射2週間後にYAGレーザーで右眼の水晶体前嚢を破った。破嚢直後から細隙灯顕微鏡で前眼部を観察し、破嚢7日後に屠殺し、採血と眼球及び肝臓の摘出を行い、ELISAと病理組織学的検察を行った。 結果:1)臨床経過:破嚢直後から7日後まで観察したがELIUにみられる前房への滲出性変化は、4例とも認められなかった。 2)ELISA:抗ラット肝臓可溶性タンパク抗体は検出されなかった。 3)病理組織学的所見:ラットの肝臓は門脈付近の肝実質にリンパ球浸潤が認められ、従来報告されているthioacetamideによる肝障害の組織像と一致していた。眼球にはぶどう膜炎の所見が欠如していた。 結論:今回行った肝障害モデルでの実験では、肝臓に対する自己抗体を産生させることができずそのためELIUの惹起までには至らなかったと考えられ、他の強力なアジュバントの併用が必要と思われた。
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