S-モジュリンは視細胞杆体において、カルシウム(Ca)濃度が高い暗時に、ロドプシンのリン酸化を阻害することにより、その不活化を抑制することにより寿命を延ばし視細胞の光感受性を高めていると考えられている。S-モジュリンのリン酸化の阻害の機構はS-モジュリン・Ca複合体がロドプシンに直接結合してそのリン酸化を阻害する機構とS-モジュリン・Ca複合体がリン酸化酵素であるロドプシンキナーゼと結合してその活性を阻害する機構の2通りが考えられる。本研究ではロドプシンとロドプシンキナーゼのいずれがS-モジュリン・Ca複合体の標的蛋白であるかを2つの方法で検討した。 1.ロドプシンとS-モジュリンの存在比を10^5の範囲で変化させ、S-モジュリンがロドプシンのリン酸化を阻害する程度をカエル視細胞外節膜を使って調べた。もし、S-モジュリン・Ca複合体がロドプシンに結合するならばS-モジュリンに対して過剰量のロドプシンが存在する時S-モジュリンが相対的に不足しロドプシンのリン酸化の阻害の程度は減弱するはずであるが、その程度に変化はなっかった。 2.S-モジュリンは高Ca濃度下においてのみロドプシンのリン酸化を阻害していることから、S-モジュリンの標的蛋白質は、高Ca濃度の時にのみS-モジュリンと結合すると考えられる。そこで、視細胞外節の膜画分をS-モジュリンと混合し、高Ca濃度下においてのみS-モジュリンと結合する蛋白質をヨウ素ラベルされた紫外線感受性の架橋剤であるDenny-Jaffe reagentを用いて検索した。その結果高Ca濃度下においてのみS-モジュリンと結合した蛋白質の分子量はロドプシンキナーゼの分子量とほぼ一致した。 以上のことからS-モジュリンによるロドプシンのリン酸化の阻害の機構は、S-モジュリン・Ca複合体がロドプシンキナーゼに直接結合し、その活性を阻害しているものと考えられた。
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