研究概要 |
エナメル上皮腫,扁平上皮癌および上皮異形成症における増殖能,細胞学的悪性度を明らかにする目的で,増殖細胞核抗原(PCNA),各種癌遺伝子・癌抑制遺伝子を検索した。その結果から以下のことが示された。 対照材料である上皮異形成と扁平上皮癌では,上皮異形成の比較的初期の段階でp53蛋白質の異常が認められ,扁平上皮癌では約70%の症例にp53蛋白質に異常が見られた。また,RB蛋白質の発現異常は癌組織の段階,しかも後期に認められた。 エナメル上皮腫,悪性エナメル上皮腫では,悪性エナメル上皮腫のPCNA陽性率は,エナメル上皮腫に比べ有意に高値を示し,PCNAがエナメル上皮腫の増殖能の指標として有用であることが示された。c-myc蛋白質はPCNA陽性率と正の相関を,ras蛋白はPCNA陽性率と負の相関を示した。また,p53蛋白質は,PCNA陽性率で高値を示した悪性エナメル上皮腫,一部のエナメル上皮腫で発現を認め,これらの症例におけるp53蛋白質の異常が示唆された。さらにPCNA陽性率で高値を示した一部のエナメル上皮腫で悪性エナメル上皮腫に類似した陽性細胞率および染色性を示したことから,これらのエナメル上皮腫が,悪性エナメル上皮腫と類似した生物学的性格を有することが示唆された。 以上より,各種癌遺伝子の検索がエナメル上皮腫の細胞学的悪性能に対するスクリーニングとして有用である可能性が示唆された。
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