研究概要 |
[目的]歯周疾患は、歯周病病原性細菌により誘導されるサイトカインが他の歯周組織に働き、さらに、正常なサイトカインネットワークを破綻することにより発症しているものと考えられる。また、成人性歯周炎の歯肉組織には、多数の単球/マクロファージの浸潤が認めらる。 さらに、この浸潤したマクロファージ由来のサイトカインは、強力な骨吸収活性があることが示されている。また、最近、破骨細胞が単球/マクロファージlineageに由来することが示されている。これらの知見を基にすると、骨芽細胞の産生する単球走化性因子JE/MCP-1遺伝子発現は、単に炎症に関与するだけでなく、歯槽骨の吸収に深く関与していると考えられる。また、骨芽細胞の機能発現は、自ら産生するTGF-βにより調節されていることが報告されている。そこで、私は、本年度文部省科学研究助成金で、TGF-βによる骨芽細胞(CM3T3-E1)のJE/MCP-1遺伝子発現機構について検討した。 [材料と方法](1)TGF-β:血小板由来の天然型を用いた。(2)c-jun/AP-1の特異的阻害剤:curcuminを用いた。(3)遺伝子発現:Northern blot法により調べた。(4)転写活性:Run on assayより求めた。(5)Gel shift assay:抽出した核蛋白質とAP-1コンセンサス配列を有した合成プローブを用いて、AP-1蛋白質結合能について検討した。(6)c-fos、c-jun anti-sense oligonucleotideの調製:[AUG]に続く18残基に対する各anti-senseを合成し使用した。 [結果](1)TGF-βによるc-fos, c-jun並びにJE/MCP-1遺伝子発現の誘導がstaurosporineにより著明に抑制された。これらの結果は、TGF-βがprotein kinase Cを介してc-fos/c-junを誘導し、さらにJE/MCP-1の発現を誘導することの可能性を示唆した。故に、この点をcurcuminを用いて詳細に検討した。(2)curcuminはTGF-βに誘導されるJE/MCP-1遺伝子とその産物の誘導を著明に抑制した。(3)そのJE/MCP-1遺伝子発現抑制は、その遺伝子の転写活性の阻害によるものであった。(4)curcuminは、TGF-βによるc-junの遺伝子発現とAP-1のDNA結合能を強く抑制した。(5)このJE/MCP-1遺伝子発現抑制機構がc-jun遺伝子発現の抑制によることの可能性についてc-jun anti-senseを用い検討したところc-jun anti-sense 10mMの濃度でJE/MCP-1遺伝子発現は強く抑制された。 [考察、結論]以上の結果より、TGF-βはprotein kinase Cを活性化し、転写因子AP-1を誘導し、MC3T3-E1細胞のJE/MCP-1発現を誘導するものと考えられる。これらの知見は、TGF-βの一つの情報伝達機構を明らかにしたものと考えられる。
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