サブスタンスPをはじめとした種々神経伝達物質はその起炎性物質としての作用から、神経性炎症免疫反応に関与していることが知られている。そこで本研究では神経伝達物質の中からサブスタンスPを選び、そのアポトーシスに対する作用を検討した。その結果、血清未添加培養によるU937のアポトーシスがサブスタンスPにより抑制されること、そしてその際、細胞内チロシンリン酸化タンパクが増加することを確認した。サブスタンスPによるチロシンリン酸化は特にdetergent不溶性タンパク分画で顕著であり、30-70kDまでの広い範囲で数多くのタンパクのチロシンリン酸化が認められたことから、これらタンパクのチロシンリン酸化によるアポトーシスの制御機構の存在が示唆された。しかし、血清添加時にチロシンキナーゼ阻害剤ハービマイシンAが誘発するアポトーシスへのサブスタンスPの作用についても検討したところ、ハービマイシンAによるアポトーシスはサブスタンスPによりコントロールレベルまで阻害され、チロシンキナーゼの直接の関与には否定的な結果が得られた。そのためサブスタンスPによる刺激伝達系には複雑で巧妙な機構の存在が示唆されたが、その詳細については今後の検討課題である。また、血清未添加誘導アポトーシスを、サブスタンスPと同様にチロシンリン酸化を伴って抑制するサイトカイン(IL-1、TNF-α)との共存下における影響を検討した。その結果サブスタンスPはIL-1については特に影響を認めなかったものの、TNF-αでは逆にアポトーシスの誘発が強められた。TNF-αについてはそれ自身血清添加条件でアポトーシスを誘発させるという報告もあり、現在、その機構については検討中である。 以上のことから、サブスタンスPがチロシンリン酸化を介した複雑な情報伝達によりU937を活性化させ、アポトーシスを抑制することが示唆された。そのため、歯髄炎の炎症巣ではサブスタンスPがこれら炎症細胞のアポトーシスを抑制することで炎症免疫反応を活性化し、病態を修飾しているものと考えられた。
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