研究概要 |
ラット顎下腺において、ホスファチジルイノシトール(PI)のリモデリング代謝に関わるリゾホスファチジルイノシトールアシルトランスフェラーゼ(LysoPI AT)は、アラキドノイル(20:4(n-6))-CoA、ビスホモ-γ-リノレノイル(20:3(n-6))-CoA、5,8,11,14,17-エイコサペンタエノイル(20:5(n-3))-CoAなどのエイコサノイド前駆体脂肪酸CoAエステルに対して高い活性を示した。このうち、反応動力学的には20:4(n-6)-CoAが最良の基質であった。さらに、イソプロテレノール連続投与による顎下腺の実験的分化・増殖下では、LysoPI AT活性の低下と、sn-2位にエイコサノイド前駆体脂肪酸をもつPIの減少が認められた。これらの結果から、PIのsn-2位へのエイコサノイド前駆体脂肪酸(特に20:4(n-6))の導入に、LysoPI AT活性が重要な役割を果していることが示唆された。一方、20:3(n-6))-CoAや20:5(n-3)-CoAがLysoPI ATの良い基質となるにも関わらず、これらの脂肪酸がPIのsn-2位では微量成分であるのは、非エステル型脂肪酸の組成とこれをアシル-CoAに変換するアシル-CoAシンテターゼ活性の基質特異性から、アシル-CoA供給の制限によることが示唆された。さらに、ジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼの活性測定における効果的な基質添加法を見い出したことから、この酵素系のエイコサノイド関連脂肪酸動態への関与の検討が可能になった。一方、精製した耳下腺分泌顆粒を用いて分泌顆粒-リポソーム系膜融合分泌モデルを構築し、非エステル型脂肪酸が膜融合調節因子のひとつとなり得ることを明らかにした。以上の結果と、顎下腺が高いプロスタグランジンE_2合成能を有し、エイコサノイドが唾液成分や唾液分泌速度に影響するとの報告から、唾液腺の細胞機能にエイコサノイド関連脂肪酸の動態が深く関わっている可能性が示唆された。
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