本研究の目的は、まずP.gingivalisの表層特異抗原(75K蛋白質抗原、線毛抗原)を用いて歯周炎患者の血清および歯肉溝滲出液の抗体値測定を行い、全身系と歯周局所での体液性免疫応答の相違点を検討することである。次にこれと並行して75K蛋白質の構造遺伝子断片をDNAプローブとして用い、PCR法による歯周ポケット内のP.gingivalisの特異的かつ高感度な検出方法を確立することである。 実験I、全身系と歯周局所での体液性免疫応答の相違点の検討 被験者は、急速進行性歯周炎患者群(RPP群)、成人性歯周炎患者群(AP群)、健常者群(N群)、各群10名計40名を用いた。抗原は、75K蛋白質抗原(75K)、線毛抗原(FIM)および全菌体抽出抗原(SUP)をP.gingivalis381株を用いてそれぞれ調製し、実験に使用した。上記被験者より血清とGCFを調製し、上記抗原を用いてELISA法によるIgG抗体価の測定を行った。その結果、全身系体液性免疫応答においては、N群に比べてRPP群とAP群が3種抗原とも有意に抗体価が上昇していた。SUPに対して抗体価が上昇していた被験者はすべて75KとFIMの両者あるいは片方に対しても抗体価が上昇していた。一方、SUPに対しては抗体価の上昇が明らかではない被験者の中に、75KとFIMの両者あるいは片方に対して抗体価が有意に上昇していた被験者が5名存在した。この5名の被験者はすべて、重度の辺縁性歯周炎患者であった。これらのことから、P.gingivalisの表層特異抗原である75K蛋白質と線毛の有用性が強く示唆されたと考えている。 現在、同一被験者の歯周ポケットより採取したGCFを用いて、ELISA法によるIgG抗体価を測定し、全身系と歯周局所での体液性免疫応答の類似点・相違点を分析中である。 実験II.DNAプローブを用いたP.gingivalisの歯周ポケットからの検出. まず最初に既にクローニングされている75K蛋白質構造遺伝子を含む4.2KbのBarHI断片を抽出・精製しプローブとした。次にP.gingivalis10株、P.gingivalis以外の口腔内細菌15種16株を用いてサザンハイプリダイゼーションを行った結果、今回調べたP.gingivalis10株にはすべて75K蛋白質遺伝子が存在し、その他の菌種には存在しないことが判明した。すなわち、75K蛋白質遺伝子は高い種特異性を有していることが明らかになった。 現在、上記DNAプローブを用いたPCR法によるP.gingivalisの歯周ポケットからの検出法を確立しつつある。
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