歯科臨床において、顎関節症患者は痛みを訴えて来院することが多い。しかし、我々はその痛みを客観的に把握することは機能障害の評価とともに必要不可欠である。我々はこれまで痛みを客観的に評価する方法としてVisual Analogue Scale(以下VASと略す)を応用し、顎関節症患者について、痛みの質はマクギル疼痛質問表を、痛みの量はVASを用いて測定したところ、(1)痛みの質は瞬間的で重苦しいなど痛みそのものは軽度だが消耗感や苦痛といった情動面が大きく関係し、(2)痛みの量は初診時VAS値の平均が2週間経過観察後に有意に減少し、経過観察の重要性が確認され、治療効果の客観的把握に有効であった。そこで今回は、顎の痛みを主訴として東北大学歯学部附属病院を受診し顎関節症と診断された15名の患者に対して、いままで経験し記憶している最大の痛みの量と安静時、開口時および食事時の顎関節の痛みの量をVASを用いて測定し、また、雑音についてはどの程度気になるかを、機能障害については日常生活への支障の程度として、それぞれVASを応用して測定し比較した。その結果、いままで経験した最大の痛みのVAS値の平均:60.5(S.D±19.3)は、開口時の痛みのVAS値の平均:15.4(S.D±14.6)に比べ有意に大きく約4倍を示し、食事時および安静時の痛みのVAS値の平均はそれぞれ15.3(S.D±13.8)、5.2(S.D±7.5)であった。また、雑音の気になる程度のVAS値の平均は44.4(S.D±30.5)、日常生活支障度のVAS値の平均は37.1(S.D±26.1)で、それぞれ痛みの量に比べ大きい値を示した。この結果から、顎関節症患者は痛みの量は経験した最大の痛みに比べ軽いこと、痛み以上に顎関節の雑音が気になることや日常生活での不安感を持っていることが確認された。 今後更にVASを用いた痛みの客観的評価法を臨床に応用したいと考えている。
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