研究概要 |
本研究において歯肉組織における各種炎症関連因子mRNA発現の検出に先だち、組織採取時の侵襲を最少とした微量歯肉組織穿刺採取法を開発した。同法を用いて採取した組織よりRNAを抽出し、RT-PCRを行うことにより、種々の因子の局所mRNA発現を同時に、半定量的に検出する系を確立した。多検体間における各種mRNA発現量の比較を行うにあたり、RT-PCRのテンプレートとなるcDNAの濃度の標準化が必要であるため、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHの194塩基対欠落変異DNAを作成し、各検体のcDNAと競合増幅することで検体中のGAPDH発現量を定量する系を確立した。これらの手法を用いて歯周炎の臨床的炎症所見と各種炎症関連因子mRNA発現の関連性を検討した。すなわち、大阪大学歯学部歯周病室を受診した成人歯周炎患者7名からインフォームドコンセントの後に臨床的に炎症所見を有する部位および健常な部位を各々一部ずつ選択し、歯肉組織局所における各種炎症関連因子mRNA発現の検出を行い臨床的炎症パラメータとの関連性を検討した。その結果、臨床的炎症所見の強く認められた部位では健常な部位と比較してIL-1α,β,IL-6、8、TNFα、IFNγおよびプロスタノイド合成の律速酵素であるCox-2-mRNA発現量が高い値を示すこと、健常部位でも数種の因子のmRNA発現量が上昇している部位が存在すること、および、これらのmRNA発現上昇は一様ではなく各部位により異なった上昇パターンを示すことが明らかになった。この上昇パターンの多様性は歯周組織局所の病態を反映しているものと考えられる。このことから、本研究で開発した手法を用いて複数の炎症関連因子mRNA局所発現の同時検出を行うことにより、歯周組織の多様な炎症像の鋭敏かつ詳細な解析が可能とり、今後の疾病活動度の研究に応用可能であることが示唆された。
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