研究概要 |
象牙質知覚過敏症の治療法はこれまで種々の方法試みられてきたが、有効かつ持続的効果を有する治療法は確立されていない。申請者らはこれまでリン酸カルシウムのpHに対する溶解度差を利用して開口した象牙細管を歯質の構成成分であるアパタイトで封鎖するアパタイト析出法を考案し、その封鎖効果を評価してきた。知覚過敏治療薬としては処理直後だけでなく、その効果が持続しなければならない。本研究では可及的にヒト口腔内に近い条件下で本処理法の封鎖効果を評価し、封鎖効果の持続性について評価をおこなった。ヒト抜去大臼歯より酸処理にて象牙細管を開口させた疑似知覚過敏象牙質プレートを調整し、アパタイト析出法(アパタイト析出液=1MCaHPO4・2MH3PO4、後処理液=1MNaOH,0.1MNaF)を施したもの、また比較検討のため未処理、シュウ酸カリウム処理等を施したプレートも人工唾液中に一定期間(1〜7日)浸積、撹拌した後、取り出し走査型電子顕微鏡により観察するとともにPashleyらの方法に従って象牙質透過性を測定し経時的な封鎖効果を評価した結果、アパタイト析出法処理直後の象牙質透過性は約6%に減少した。人工唾液中にて1日環浸盪すると透過率は17%にまで上昇したが、さらに人工唾液中にて浸盪すると再び透過率は低下し、7日後には4%であった。一方、シュウ酸カリウムの場合は塗布直後に透過率が8%にまで低下したが、浸盪時間の経過とともに上昇し、7日後の透過率は39%であった。走査型電子顕微鏡観察ではアパタイト析出法ではいずれの期間においても象牙細管内に結晶が認められ、7日後には結晶と象牙細管境界が不明瞭な像を呈しており、持続的な封鎖効果を有することが示された。一方、シュウ酸カリウムの場合には処理直後には象牙細管を効果的に封鎖するものの、析出物が徐々に人工唾液中に溶出するため、象牙細管封鎖効果が経時的に減少した。
|