研究概要 |
エナメル質およびセメント質に続発する象牙質齲蝕病巣の歯髄側の象牙細管において、細菌侵入に対する防御反応としての細管内液中の免疫成分の存在が示唆されている。しかしながら、その局在性や由来あるいは侵入細菌種との関連性についての統一した見解は得られていない。そこで本研究では、歯根部齲蝕を有するヒト生活歯を化学固定および脱灰後、水溶性樹脂(GMA)包埋し、薄切および超薄切片を作製したのち、ミュータンスレンサ球菌をはじめとする種々の齲蝕関連細菌に対するウサギ特異抗体ならびにヒトの免疫成分(IgG,C3および分泌型IgA(sIgA))に対するウサギあるいはヤギ特異抗体を一次抗体とする免疫染色を行った。なお、光顕的には酵素抗体法染色(LSAB法)を電顕的にはイムノゴールド染色(IGS法)を用いた。観察した結果、齲蝕病巣の進行に対する生体側の防御反応が起こっていると推測される以下の所見が得られた。1.検索対象とした口腔細菌のうちActino my cesが歯根部齲蝕病巣中に最も高い頻度で検出された。 2.IgGは、病巣最深部の細菌侵入象牙細管よりもさらに歯髄側の象牙細管、特に象牙芽細胞突起が残存する象牙細管中で多く検出された。そのような部位を免疫電顕染色して観察すると細管壁と象牙芽細胞突起との間隙で抗IgG抗体の反応が確認された。3.sIgAは、IgGとは逆に象牙質齲蝕病巣の表層部における細菌侵入象牙細管中に高い頻度で検出され、補体成分(C3)に関しては齲蝕病巣中ではほとんど検出されなかった。今回の検索では齲蝕病巣最深部で検出される細菌種とヒト免疫成分の局在との関連については特徴的な所見は得られなかった。
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