研究者らは、これまで、リン酸と次亜塩素酸ナトリウムを併用した象牙質表面処理法について検討し、接着強さ及び接着耐久性の向上に効果があることを報告してきた。しかし、この方法は操作が繁雑で処理時間が長く、日常臨床で用いるには問題点がある。本研究では、この処理法に替わるものとして、酸性度が高く次亜塩素酸を含む酸化電位水に着目し、その象牙質への接着性に対する影響及び表面処理剤としての可能性について検討した。その結果、象牙質表面に酸化電位水を15秒間流水処理することにより管間象牙質のスメア層の除去が可能であり、処理時間を延長することによりスメアプラグの除去も可能であった。TEM観察では脱灰層と非脱灰層との境界は比較的明瞭であり、また脱灰層にはコラーゲンのバンド構造が確認できた。剪断接着試験の結果、初期接着強さは無処理の場合に比較して酸化電位水処理時間を増すにつれて低下傾向にあり、酸化電位水処理を行うことの象牙質接着性に対する有効性はみられなかった。そこで、酸化電位水処理した後に、象牙質最表層の脱灰コラーゲン層を除去するために次亜塩素酸ナトリウム処理を追加したところ初期接着強さでは無処理に対して有意に接着強さが向上したものの、熱サイクルを負荷することにより接着強さが低下した。SEM観察では次亜塩素酸ナトリウム処理を追加しても象牙質表面のコラーゲンが完全に除去されずに残留しているのが確認され、これが接着耐久性の低下に要因と考えられる。以上により、酸化電位水による象牙質表面処理は、スメア層は除去できるものの脱灰コラーゲン層は除去できないため、リン酸と次亜塩素ナトリウムによる象牙質表面処理法に替わることは現段階では難しいと思われる。
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