補綴物用の貴金属合金、人工歯根用のチタン合金、クラスプ及び金属床用合金、ろう材、磁性アタッチメント用ステンレス鋼などは、歯科用金属材料の中でも歯科臨床的に接合利用される可能性の高い合金である。本研究では、これらの合金を互いに接合し、電気化学的挙動と溶出イオン量から異種金属の接触によるガルバニ腐食について調べ、異種金属の接合における腐食挙動を新たな観点から解明し、接合による腐食損傷がより少なくなるような金属材料の組み合わせを検討した。その結果、歯科用貴金属合金と卑金属合金を接合すると1)陶材焼付用金合金とSUS430系ステンレス鋼のように、従来通り貴金属合金の腐食が抑制され、その反対に卑金属合金の腐食が加速されるもの、2)金銀パラジウム合金とSUS316Lステンレス鋼のように、両者から溶出する金属イオンが増加し、貴及び卑に関わらず両者の腐食損傷が加速されるもの、3)ステンレス鋼と純チタンのように電位の卑な純チタンが腐食せずに、電位の高いステンレス鋼の腐食が促進されるものがあることがわかった。2)の腐食機構については、金属の電位が経時的に変化し、貴金属に分類されている合金であっても卑金属合金よりも電位が低くなる場合があることが明らかになった。3)については、不動態化するまで非常に電位の低い純チタンとの接合により、ステンレス鋼の電位が活性溶解域に長時間保持され、不動態化しにくくなることに起因することがわかった。以上より、現実の接合による腐食は、従来の単純な腐食機構、すなわち貴な合金の腐食が抑制され、卑な合金が優先腐食することと大きく異なることが示唆された。従って、今後これらの実験結果を基に、接合による腐食損傷のより少ない合金の組み合わせを把握し、補綴物の設計及び接合を前提にした合金開発の基礎データを作成する予定である。
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