著者らは、長年にわたり、バイオフィードバックを利用した咬合診査法を顎関節症患者に応用し、良好な成績をおさめている。本研究では、咬合調整のみで治癒した患者群を対象とし、個々の症例の顎関節症発症に関与していた咬合異常部位について検索し、これらの咬合接触面積と頭頸肩部筋群の疼痛発現部位および頭痛・肩こりとの関連を検討した。被験者は、当科に来院した顎関節症患者で、修復物が少なく完全歯列を有し、通法の咬合検査では咬合高径や咬合位の明かな異常を認めない40症例を用いた。これらの被験者は、バイオフィードバックを用いた咬合診査によって検出された咬合異常部位の咬合調整により完全治癒した患者である。 (1)本研究の被験者は、治療前に咬合接触点数および咬合接触面積比の著しい左右的不均衡が認められ、また症状消失時にはこの不均衡が有意に改善していることが明らかにあった。(2)歯種別では、初診時での第二大臼歯の咬合接触面積比は、他の歯種に比較し有意に大きかった。症状消失時では、初診時に比較し、第二小臼歯と第一大臼歯の接触面積比は有意に増加し、第二大臼歯は有意に減少した。(3)被験者は、40例中34例で片側のみに筋の疼痛が認められた。さらに、症状が片側のみに認められた34例を用いて、症状側と非症状側の咬合接触面積比を比較したところ、症状側の咬合接触面積比が有意に大きいことが判明した。また、症状側の大臼歯の咬合接触面積比は、非症状側の大臼歯に比べ有意に大きかった。(4)各臨床症状のうち、自発痛、運動痛、咀嚼痛および顎関節部、咬筋深部、顎二腹筋後腹の圧痛は、咬合接触面積比の大きい側に一致して観察された。(5)これらの結果から、顎関節症患者のの頭頸肩部筋群の疼痛の発現および頭痛・肩こりは、咬合異常部位と密接な関連を有し、なかでも咬合接触面積比の左右バランスが大きく関与していることが示唆された。
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