歯根膜の働きの1つとされている緩衝作用について、有限要素法を用いた力学的観点から以下の結果を得た。 歯根膜の緩衝作用は、歯牙に加わる力が衝撃荷重か接続荷重かによって異なることが明らかになった。 まず、荷重が衝撃荷重である場合は、Skalakが示した衝撃吸収を示す図と同様の傾向が得られた。すなわち、歯根膜が存在しない場合は、荷重直後に顎骨に応力のピーク値が存在したが、歯根膜が存在すると上記のピークは存在せず、顎骨に伝達される応力は低値でしかも一定に保たれていた。以上から、歯根膜は衝撃荷重を吸収し顎骨に加えられる応力を緩和していることが確認された。つぎに荷重が接続的である場合は、荷重が衝撃的である場合とは全く異なった結果が得られた。 歯根膜が存在しない場合、応力は徐々に増加し荷重が解放されると徐々に減じる、いわゆる粘弾性の挙動を表わしているマックスクエル・フォークトモデルの応力曲線と同様の傾向を示した。しかし、歯根膜が存在すると、荷重が解放された後の減少は僅かで、荷重がさらに加えられると応力は、歯根膜が存在しない場合よりも大きくなることが判明した。以上から、荷重が接続的である場合は歯根膜の緩衝効果は認められず、かえって顎骨の応力を増幅させることが示唆された。このことは歯牙が接続的荷重に弱いとされている臨床的事実と合致するものであった。 また上記のことは、荷重の方向が垂直の時も水平の時も同様の結果を示した。
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