口腔外科領域において舌運動異常患者に用いられる床装置による口蓋粘膜への刺激が、舌機能にいかなる影響を与えているかを調べるための実験系を組んだ。そのためにはヒトの舌筋活動を持続的に、安定して記録できる電極が不可欠である。大阪大学の高田らは表面電極を用い、オトガイ舌筋の筋電図を非侵襲的に記録する方法を開発した。今回この方法を追試したところ、舌を運動させると電極が口底部から離れてしまい、安定した筋電図が記録されにくかった。そこで高田らの方法を改良した電極の試作を行った。 被験者は、実験について十分に説明し同意の得られた成人とした。電極は一対のボール型表面電極で、電気伝導性の向上のために表面を金銀パラジューム合金でコーティングした。これを絶縁チューブに通し周囲をレジンで固め、第一および第二小臼歯に固定した。被験者ごとに製作したスプリングを電極とレジンブロックの間に装着し電極が弱圧で口底部に密着するよう調整した。オトガイ舌筋の筋電図は今回購入したバイオリサーチシステムを用い記録した。その結果、赤唇上までの舌の前突では比較的安定したオトガイ舌筋の筋電図が記録された。また、舌を前突位で固定させると、舌位に変化がないにも関わらずオトガイ舌筋活動が次第に減弱することが明らかとなった。このことは、舌位保持にあたっては舌前突筋のみならず、拮抗筋である後退筋にも筋活動の調節がなされ、より容易な舌位保持を可能にする神経機構が働いている可能性を示している。さらに、母音発声時の筋活動は高田らの結果と同様な傾向が認められ、/i/発声時に最も強い筋活動が認められた。しかし、口腔内感覚器官を刺激した歳に生じるであろう微弱な筋活動の変化はいまだ記録されるにいたっておらず、今後はよりS/N比の高い電極の製作を大阪大学と共同で行い、床装置の作用機序の解明を行っていく予定である。
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